磁気構造解析で最も重要な事は、合理的な磁気構造モデルを構築する事です。
Representation Analysis Techniqueは、結晶の対称性から考えて最も安定な磁気構造モデルを、群論的考察に基づいて探索する非常に洗練された技法で、必ず磁気構造モデルを立てる事ができます。 二次転移に関するLandau理論によると、転移点直下の磁気構造は、結晶の空間群の対称操作のうち、k-vector、すなわち磁気構造の周期性を不変にする対称操作からなる部分群の表現のうちのただ一つの既約表現に属する基底ベクトルの線形結合で表現できます。これは、系のハミルトニアンはその部分群の対称操作で不変になることからきています。磁気秩序により対称性はさがっても、その磁気モーメントの配列は結晶の空間群に支配されていて、その対称操作で変わってしまうような磁気構造は安定に存在しない、ということのようです。 言葉に書くと複雑ですが、これは、3次元空間中の任意の点が3つの直交するユニットベクトルの線形結合ですべてあらわせるのと同様で、既約表現の基底ベクトルの線形結合により、その規約表現に属するすべての磁気構造を表現することができる、ということのようです。従って、その既約表現およびその基底ベクトルを計算できれば、その線形結合として結晶の対称性と整合性の良い磁気構造モデルを構築する事ができます。それでもまだ自由度は多いけれど、無数ではなくせいぜい10こ程度におさまっています。 通常、磁気構造モデル作りは、試行錯誤を繰り返す事になるのでどうしても恣意的になりがちですが、Representation Analysis Techniqueを使えば、空間対称性の要請をみたさないモデルを初めから排除する事ができます。じつに強力な技法で、欧米ではRepresentation Analysis Techniqueを使っての磁気構造解析が盛んです。しかし、なぜか日本で使いこなしている研究者はほとんどいないのが現状です。幸い、都立大の門脇氏はこの技法のエキスパートで、「波紋」Vol.10 No.3 P33に詳細な解説を投稿しています。 Representation Analysis Techniqueを使う際に、自分で計算して既約表現をえるのは、よほど計算に強い人でないと厳しいでしょう。その点、下で紹介するソフトは、常磁性状態での結晶の空間群と、磁気構造のk-ベクトル、磁性原子の位置だけから、すべての既約表現とその基底ベクトルを計算してくれ、計算の手間を一気に省いてくれる優れ物たちです。人間は得られた基底ベクトルの線形結合を作るだけです。ですからこれらのソフトを使いこなす事ができれば、一発で磁気構造モデルが構築できるかもしれません。運がよければ。 少なくとも、対称性から考えて不自然な恣意的な磁気構造モデルに引っ掛かる事を避ける事ができます。スカラー量やテンソル量にも使えるので、磁気構造に限らず、電荷秩序、四極子秩序など結晶の物性を考える上で重要なツールになるはずです。 使う人はいませんかあ?同士募集します。 |
SARAh London大学のDr. A.S.Willsが作成したソフト。Fullprofや GSASと相性がよくて、それぞれの入力ファイルを作成してくれる。FullProfを使いこなす早道はSARAhを使う事。WIndows版のみ。出力ファイルがおどろくほど充実している。以下の文献にはSARAhの結果と、Representation analysis techniqueの原理が詳しい。 Mody ポーランドのグループが作成したソフト。Windows版のみ。NISTで流行っているらしい。 BasiReps Fullprofの作者が作ったソフト。当然、Fullprofとの相性がすごくいい。入手するには、作者に直接メールするらしい。 また、佐藤卓氏も独自の解析ソフトを作成している。Linux, Windows, MXOSXで動作可。 また、門脇氏(都立大)もUNIX上で動く解析ソフトを作成している。また詳しい解説を下の文献に書いている。唯一の日本語解説。 文献:「波紋」Vol.10 No.3 P33 |