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群論的考察による磁気構造モデル探索ソフトSARAh

気づいた事のメモ

UPDATE: 8-JAN-04

今日の智慧:Kovalev表記の落とし穴



本来SARAhは30日間のトライアル期間がついているが、日本語WInowsとのコンフリクトがあるらしく、1回しか使えない。英語版Windowsでは問題なく期間中は何回もトライアルできる。


日本語版Windows上でも、正規のregistration codeを入力すれば、ちゃんと動く。ただし、毎回codeを入力しないといけない。


SARAhの出力ファイルは充実していて、Fullprofの入力ファイル(PCR)をきっちり作ってくれる。基底ベクトルは9個まで。pcrを理解する上でも便利便利。


GSASも同様で、SARAh で求めた既約表現基底を適当に線形結合して GSAS と合体して、powder diffraction pattern を fitting してくれる。


出力の中に、tex形式があり、そのままコピペで論文に使えるすぐれもの。モーメントも実数化されている。


参考文献は
  A.S. Wills, Phisica B 276-278 (2000) 680
だけど、会議のProceedignsで2ページしかない。実例を詳しくみたいのなら、

  Wills: PRB 63 (2001) 064430
  Champion et al. : PRB 64 (2001) 140407(R)
の方がよい。

Modyの例だが、O. Zaharko et al:PRB 63 (2003) 214401も重要。


Represantavive Analysisそのものについては、Izyumovの論文が分かりやすい。なぜひとつの既約表現になるのか、という理由のたとえ話もいくつかあって、物理イメージを捕まえやすい。
Izyumov et al.: JMMM 12 (1979) 239.



物性物理学のための群論の勉強には、今野さんの教科書「物質の対称性と群論」がお勧め。(紹介

詳細


この方法は以下の手順で進められるらしい。
1:常磁性の空間群G0の対称要素のうち、k-vectorを不変に保つ、または等価のベクトルに変換する要素を選びだす。その対称要素の数は、G0の対称要素総数/偶数 になる。
2:選び出された対称操作の集合Gkは群を成している。つまり、GkはG0の部分群になる
3:Gkの既約表現を求める。
4: 5:それぞれの既約表現の基底ベクトルを求める。原子一つに基底ベクトルひとつ。既約表現が二次元なら基底ベクトルも二組になる。
6:基底ベクトルの線形結合で磁気構造モデルをつくる。モデルの自由度、つまりfittingパラメーターの数は基底ベクトルの数と同じ。


既約表限(G8とか)ひとつが、ひとつの磁気構造。絵に描いてみると分かりやすい。それにはtexファイルの表が分かりやすい。パラメーターは、基底ベクトルの係数だけ。基底ベクトルが一つしかない既約表現なら磁気モーメントの大きさだけがパラメーターになる。


磁気構造がGkのただ一つの既約表現で表されるというのは二次転移に対するLandau理論に基づいているから、一次転移の場合には厳密には使えないはず。その場合は、現れた既約表現の複数あるいは全部の線形結合で表す事になる。でも、Kadowakiによれば、これまでに見つかったほとんどの磁気構造は、1つかせいぜい2つの既約表現で表す事ができるらしい。(波紋 10 (2000) 33,)。またWills自身も、一次転移の場合も二次転移と同じ様にあつかう事ができ、ただ一つの既約表現で表す事ができる、といっている。何故なら「Nature is often kind to us.」だから。
Izyumovも、「実際に調べてみたら、圧倒的多数の物質の磁気構造は、ただひとつの既約表現で表す事ができた。」と書いている。(JMMM 1979)。


「磁気構造がGkのただ一つの既約表現で表される」といのは、仮説にすぎないかもしれない。ポーランドのSikoraは、次のように書いている。
「まず第1近似として、磁気構造がGkのただ一つの既約表現で表されるとしてモデルをたてる。それがうまくいかないなら、次に磁気構造がGkの二つの既約表現で表されるとしてモデルを立てる。」(Proc. of the 5th Int. Shool on Therotical Physics. P352)
Izyumov自身も論文(JMMM 1979)中で、二つの既約表現を必要とすつ磁気構造がある事を明示している。


GあるいはG0は結晶の空間群の事。
Gkは、Gの対称操作のうち、propagation vector kを不変(invariant)にする対称操作のみを取り出してつくった部分群。例えば、K=(0.5,0.5,0)なら、Gの対称操作をしてみてた結果がk=(0.5,0.5,0)になるものを集めた、って事。


非Primitive対称性(I,F,R)では、centering transrationの操作を含むが、Representational Analysisではこの操作を計算に含めない。なぜなら、
as they lead only to a trivial scalling of the results. (PRB 63 064430)
だから。centering transrationによって生じる位置での磁気モーメントは位相(-2 Pi k t)を考えるだけで求まる。(下表)


ときおり、「G(0)/Gk=3なのでこの転移は二次転移ではない。」となる事がある。G0とGkに含まれる対称操作の数の比が奇数になっている、という意味。二次転移ならこの比が偶数にならないといけないらしい。ただし、対称性の高い立方晶などでは、軸の取り方でG/Gkが変る場合もある。(1/2,1/2,0)でだめなら、(1/2,0,1/2)と(0,1/2,1/2)もためしてみるといい。


立方晶など対称性の高い場合、International TableとKovlevで演算子の定義が異なる。SARAhはKovalev演算子で計算するので、計算結果での原子位置がInternational TAbleに載っているものと異なっていてびっくりする。しかし、centering translationも含めると等価になるので、問題ない。
例えば、
Fd-3m (277)の8bサイト(3/8,3/8,3/8)の場合
入力:(3/8,3/8,3/8)
出力:(3/8,3/8,3/8), (5/8,5/8,5/8)
一方International TAbleの8bサイトは
  :(3/8,3/8,3/8), (1/8,5/8,1/8)

位置が異なっているが、これに+(000), +(1/2,1/2,0), +(1/2,0,1/2), +(0,1/2,1/2)を加えると、KovalevとITは一致する。


磁性原子が1サイトに複数個ある場合、Gk群の対称操作で不変になる位置が生じる場合がある。その場合は、不変でない位置と不変な位置とを区別し、それぞれをOrbital 1、Orbital 2とよび、それぞれについての既約表現を計算している。従って、同一サイトの磁性原子でも、Orbitalが異なれば別な方向を向いてもいいし、片方のoirbitalの磁気モーメントが0になってもいい。(例:PRB 64 (2001) 140407R)

あるいは、orbitalとは同一サイトでも主軸のとりかたの異なる位置、という意味かもしれない。orbitalの意味はよくわからない。


出力ファイルlst2などでは、orbitalはATOM #1, ATOM #2として区別されている。texファイルでは、Ce cite、Ce2 citeなどと書かれて、別な表になっている。


もし、異なるorbitalで同じ既約表現があれば、その既約表現の可能性が高い。なぜなら、磁気構造は一つの既約表現で表されるはずだから。


Orbitalではなく、もともと複数の磁気サイトが有った場合は、いくつか可能性がある。もしサイト間相互作用が非常に強く、それぞれのサイトでの既約表現を計算した場合、磁気構造は両方のサイトに現れる既約表現のみで表現されるはず。たとえば磁性サイトが2サイトあるのに転移が一回しかおきない場合。逆に、両サイトの既約表現に共通のものがなければ、二つのサイトは独立の振舞いをしているはず。



Representational Analisys の計算ではcentering transration操作は無視されるが、centering transrationとしてtがあった場合、SARAhで計算した磁気モーメントと、センタリングによって生じる磁気モーメントの関係は、exp(-2pi i kt)


SARAhのlst2の最後にある複素数表示での基底ベクトルに対しこのexp(-2pi i kt)を用いて、その後に実数化すれば、各センタリングでの磁気モーメントの位置がでる。
FCC
k=(0,0,1/2)
+(0, 0, 0)+(0,1/2,1/2)+(1/2,0,1/2)+(1/2,1/2,0)
exp(-2Pi i kt)1ii1
(0,0,m)(0,0,m)(000)(000)(0,0,m)
(mx,im,0)(m,0,0)(0,m,0)(0,m,0)(m,0,0)
k=(1/2,1/2,0)
+(0, 0, 0)+(0,1/2,1/2)+(1/2,0,1/2)+(1/2,1/2,0)
exp(-2Pi i kT)1ii-1
(0,0,m)(0,0,m)(000)(000)(0,0,-m)
(mx,im,0)(m,0,0)(0,m,0)(0,m,0)(-m,0,0)
k=(1/2,1/2,1/2)
+(0, 0, 0)+(0,1/2,1/2)+(1/2,0,1/2)+(1/2,1/2,0)
exp(-2Pi i kT)1-1-1-1
(0,0,m)(0,0,m)(00,-m)(00,-m)(0,0,-m)


BCC
k=(0,0,1/2)
+(0, 0, 0)+(1/2,1/2,1/2)
exp(-2Pi i kT)1i
(0, 0, m)(0, 0, m)(000)
(mx, im, 0)(m, 0, 0)(0,m,0)
k=(1/2,1/2,0)
+(0, 0, 0)+(1/2,1/2,1/2)
exp(-2Pi i kT)1-1
(0, 0, m)(0, 0, m)(0, 0, -m)
k=(1/2,1/2,1/2)
+(0, 0, 0)+(1/2,1/2,1/2)
exp(-2Pi i kT)1i
(0, 0, m)(0, 0, m)(0, 0, 0)
(mx, im, 0)(m, 0, 0)(0,m,0)


結局、SARAhは(たぶんModyも)、センタリング操作を除いた原子位置での磁気モーメントを計算してくれて、センタリングによる変換は自分で計算すればいい。


しかし、
このkの定義でいけば、センタリングのないPrimitiveセルでは、commensurateならユニットセルの大きさだけでkが決まり、内部の磁気構造にはよらないはず。しかし、消滅則がある場合は区別すべきではないか。たとえば、P4/mbmでは全てのサイトでh00 (h=奇数)が禁制反射である。ここで(100)などに磁気反射が観測された場合は、磁気ユニットセルと格子ユニットセルが一致しているが、k=(000)ではなくk=(100)とすべきだ。


P4/mbmの場合、SARAhはk=(000)で計算してもk=(100)の分も計算してくれるので問題はない。つまり、反強磁性結合と強磁性結合の両方の基底ベクトルが出現している。しかし、表現としてはk=(100)が正しいはず。


結局、センタリングのない構造(P)では、磁性原子が対称性の高いサイトに入る場合は、k-vectorを考える際にその消滅則に注意すればよい。



ErB2C2 ( k=(000) 、P4/mbm)の磁気構造解析のPCR for Fullprof

SARAhで作成したPCRファイル。このPCRファイルでfittingできた。
!-------------------------------------------------------------------------------
!  Data for PHASE number:   2  == Current R_Bragg for Pattern#  1:     3.82
!-------------------------------------------------------------------------------
Magnetic Phase                                                                  
!
!Nat Dis Mom Pr1 Pr2 Pr3 Jbt Irf Isy Str Furth     ATZ   Nvk Npr More
   1   0   0 0.0 0.0 1.0   1   0  -2   0   0        0.00   0   7   0
!
P -1                     
! Nsym   Cen  Laue Ireps N_Bas
     2     1     4    -1     1
! Real(0)-Imaginary(1) indicator for Ci
  0
!
SYMM X, Y, Z                                                                                                                        
BASR       0       0       1                                                                                                        
BASI       0       0       0                                                                                                        
SYMM -X+1/2, Y+1/2, -Z                                                                                                              
BASR       0       0      -1                                                                                                        
BASI       0       0       0                                                                                                        
!
!Atom Typ  Mag Vek    X      Y      Z       Biso   Occ      C1      C2      C3
!     C4     C5     C6      C7      C8      C9     MagPh
ER1  JER3  1  0  0.00000 0.00000 0.00000 0.30000 1.00000   8.100   0.000   0.000
                    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00
   0.000   0.000   0.000   0.000   0.000   0.000 0.00000
    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00
!------- Profile Parameters for Pattern #  1
!  Scale        Shape1      Bov      Str1      Str2      Str3   Strain-Model
  26.255       0.00000   0.00000   0.00000   0.00000   0.00000       0
    11.00000     0.000     0.000     0.000     0.000     0.000
!       U         V          W           X          Y        GauSiz   LorSiz Size-Model
   0.453330  -0.620650   0.300690   0.000000   0.107260   0.000000   0.000000    0
    101.000    111.000    121.000      0.000    131.000      0.000      0.000
!     a          b         c        alpha      beta       gamma
   5.329898   5.329898   3.490530  90.000000  90.000000  90.000000
   21.00000   21.00000   31.00000    0.00000    0.00000    0.00000
!  Pref1    Pref2      Asy1     Asy2     Asy3     Asy4      S_L      D_L
  1.28574  0.00000  0.18176  0.04551  0.00000  0.00000  0.00000  0.00000
     0.00     0.00     0.00     0.00     0.00     0.00     0.00     0.00


注意点:
Erを一つしか定義していない。ユーザーが定義した対称操作で、もうひとつのEr(1/2,1/2,0)の位置と磁気モーメント向きが計算できるから。

propagation vector kを定義していない。k=(100)をk=(000)としているから。

ユニットセルの大きさは格子ユニットセルと同じ。k=(000)だから。

既約表現のうち、二つの磁気モーメントが反平行になるものを選んでいる。他の既約表現は物理的におかしいので除外できた。

ここでは既約表現は1つしか定義していないのに、係数パラメーターCiは9個定義している。実際に使っているのはC1のみ。

既約表現は規格化しておかないといけない。SARAhの出力は規格化されてない。





ErB2C2 ( k=(d,d,0) 、P4/mbm)の磁気構造解析のPCR for Fullprof

中間相の横波正弦波構造、d=0.111での計算結果

!-------------------------------------------------------------------------------
!  Data for PHASE number:   1  == Current R_Bragg for Pattern#  1:    1.00
!-------------------------------------------------------------------------------
Magnetic Phase
!
!Nat Dis Mom Pr1 Pr2 Pr3 Jbt Irf Isy Str Furth     ATZ   Nvk Npr More
   1   0   0 0.0 0.0 1.0   1   0  -2   0   0        0.00  -1   0   0
!
P -1                      --Space group symbol
! Nsym   Cen  Laue Ireps N_Bas
     2     1      4    -1     1
! Real(0)-Imaginary(1) indicator for Ci
  0
!
SYMM X, Y, Z
BASR       0       0       2
BASI       0       0       0
SYMM Y+1/2, X+1/2, -Z
BASR       0       0  -1.533
BASI       0       0  -1.285
!
!Atom Typ  Mag Vek    X      Y      Z       Biso   Occ      C1      C2      C3
!     C4     C5     C6      C7      C8      C9     MagPh
ER1  MER3  1   1    .00000  .00000  .00000 .30000 1.00000   0.000   0.000   0.000
                    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00
   0.000   0.000   0.000   0.000   0.000   0.000   .00000
    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00    0.00
!-------Profile Parameters for Pattern #  1
!  Scale       Shape1      Bov     Str1     Str2     Str3    Strain-Model
    10.0        0.0000   0.0000   0.0000   0.0000   0.0000       0
     0.00000     0.00     0.00     0.00     0.00     0.00
!      U        V         W          X         Y       GauSiz   LorSiz Size-Model
   1.08239  -0.23233   0.25618   0.00000   0.00000   0.00000   0.00000   0
      0.00      0.00      0.00      0.00      0.00      0.00      0.00
!     a          b         c        alpha      beta       gamma
 1  1  1  90  90  90 
    0.00000    0.00000    0.00000    0.00000    0.00000    0.00000
!  Pref1    Pref2      Asy1     Asy2     Asy3     Asy4  
  0.00000  0.00000  0.00000  0.00000  0.00000  0.00000
     0.00     0.00     0.00     0.00     0.00     0.00
! Propagation vectors: 
    .1110000    .1110000    .0000000          Propagation Vector  1
    0.000000    0.000000    0.000000

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130.GIF