本来SARAhは30日間のトライアル期間がついているが、日本語WInowsとのコンフリクトがあるらしく、1回しか使えない。英語版Windowsでは問題なく期間中は何回もトライアルできる。
日本語版Windows上でも、正規のregistration codeを入力すれば、ちゃんと動く。ただし、毎回codeを入力しないといけない。
SARAhの出力ファイルは充実していて、Fullprofの入力ファイル(PCR)をきっちり作ってくれる。基底ベクトルは9個まで。pcrを理解する上でも便利便利。
GSASも同様で、SARAh で求めた既約表現基底を適当に線形結合して GSAS と合体して、powder diffraction pattern を fitting してくれる。
出力の中に、tex形式があり、そのままコピペで論文に使えるすぐれもの。モーメントも実数化されている。
参考文献は
A.S. Wills, Phisica B 276-278 (2000) 680
だけど、会議のProceedignsで2ページしかない。実例を詳しくみたいのなら、
Wills: PRB 63 (2001) 064430
Champion et al. : PRB 64 (2001) 140407(R)
の方がよい。
Modyの例だが、O. Zaharko et al:PRB 63 (2003) 214401も重要。
Represantavive Analysisそのものについては、Izyumovの論文が分かりやすい。なぜひとつの既約表現になるのか、という理由のたとえ話もいくつかあって、物理イメージを捕まえやすい。
Izyumov et al.: JMMM 12 (1979) 239.
物性物理学のための群論の勉強には、今野さんの教科書「物質の対称性と群論」がお勧め。(
紹介)
詳細
この方法は以下の手順で進められるらしい。
1:常磁性の空間群G0の対称要素のうち、k-vectorを不変に保つ、または等価のベクトルに変換する要素を選びだす。その対称要素の数は、G0の対称要素総数/偶数 になる。
2:選び出された対称操作の集合Gkは群を成している。つまり、GkはG0の部分群になる
3:Gkの既約表現を求める。
4:
5:それぞれの既約表現の基底ベクトルを求める。原子一つに基底ベクトルひとつ。既約表現が二次元なら基底ベクトルも二組になる。
6:基底ベクトルの線形結合で磁気構造モデルをつくる。モデルの自由度、つまりfittingパラメーターの数は基底ベクトルの数と同じ。
既約表限(G8とか)ひとつが、ひとつの磁気構造。絵に描いてみると分かりやすい。それにはtexファイルの表が分かりやすい。パラメーターは、基底ベクトルの係数だけ。基底ベクトルが一つしかない既約表現なら磁気モーメントの大きさだけがパラメーターになる。
磁気構造がGkのただ一つの既約表現で表されるというのは二次転移に対するLandau理論に基づいているから、一次転移の場合には厳密には使えないはず。その場合は、現れた既約表現の複数あるいは全部の線形結合で表す事になる。でも、Kadowakiによれば、これまでに見つかったほとんどの磁気構造は、1つかせいぜい2つの既約表現で表す事ができるらしい。(波紋 10 (2000) 33,)。またWills自身も、一次転移の場合も二次転移と同じ様にあつかう事ができ、ただ一つの既約表現で表す事ができる、といっている。何故なら「Nature is often kind to us.」だから。
Izyumovも、「実際に調べてみたら、圧倒的多数の物質の磁気構造は、ただひとつの既約表現で表す事ができた。」と書いている。(JMMM 1979)。
「磁気構造がGkのただ一つの既約表現で表される」といのは、仮説にすぎないかもしれない。ポーランドのSikoraは、次のように書いている。
「まず第1近似として、磁気構造がGkのただ一つの既約表現で表されるとしてモデルをたてる。それがうまくいかないなら、次に磁気構造がGkの二つの既約表現で表されるとしてモデルを立てる。」(Proc. of the 5th Int. Shool on Therotical Physics. P352)
Izyumov自身も論文(JMMM 1979)中で、二つの既約表現を必要とすつ磁気構造がある事を明示している。
GあるいはG0は結晶の空間群の事。
Gkは、Gの対称操作のうち、propagation vector kを不変(invariant)にする対称操作のみを取り出してつくった部分群。例えば、K=(0.5,0.5,0)なら、Gの対称操作をしてみてた結果がk=(0.5,0.5,0)になるものを集めた、って事。
非Primitive対称性(I,F,R)では、centering transrationの操作を含むが、Representational Analysisではこの操作を計算に含めない。なぜなら、
as they lead only to a trivial scalling of the results. (PRB 63 064430)
だから。centering transrationによって生じる位置での磁気モーメントは位相(-2 Pi k t)を考えるだけで求まる。(下表)
ときおり、「G(0)/Gk=3なのでこの転移は二次転移ではない。」となる事がある。G0とGkに含まれる対称操作の数の比が奇数になっている、という意味。二次転移ならこの比が偶数にならないといけないらしい。ただし、対称性の高い立方晶などでは、軸の取り方でG/Gkが変る場合もある。(1/2,1/2,0)でだめなら、(1/2,0,1/2)と(0,1/2,1/2)もためしてみるといい。
立方晶など対称性の高い場合、International TableとKovlevで演算子の定義が異なる。SARAhはKovalev演算子で計算するので、計算結果での原子位置がInternational TAbleに載っているものと異なっていてびっくりする。しかし、centering translationも含めると等価になるので、問題ない。
例えば、
Fd-3m (277)の8bサイト(3/8,3/8,3/8)の場合
入力:(3/8,3/8,3/8)
出力:(3/8,3/8,3/8), (5/8,5/8,5/8)
一方International TAbleの8bサイトは
:(3/8,3/8,3/8), (1/8,5/8,1/8)
位置が異なっているが、これに+(000), +(1/2,1/2,0), +(1/2,0,1/2), +(0,1/2,1/2)を加えると、KovalevとITは一致する。
磁性原子が1サイトに複数個ある場合、Gk群の対称操作で不変になる位置が生じる場合がある。その場合は、不変でない位置と不変な位置とを区別し、それぞれをOrbital 1、Orbital 2とよび、それぞれについての既約表現を計算している。従って、同一サイトの磁性原子でも、Orbitalが異なれば別な方向を向いてもいいし、片方のoirbitalの磁気モーメントが0になってもいい。(例:PRB 64 (2001) 140407R)
あるいは、orbitalとは同一サイトでも主軸のとりかたの異なる位置、という意味かもしれない。orbitalの意味はよくわからない。
出力ファイルlst2などでは、orbitalはATOM #1, ATOM #2として区別されている。texファイルでは、Ce cite、Ce2 citeなどと書かれて、別な表になっている。
もし、異なるorbitalで同じ既約表現があれば、その既約表現の可能性が高い。なぜなら、磁気構造は一つの既約表現で表されるはずだから。
Orbitalではなく、もともと複数の磁気サイトが有った場合は、いくつか可能性がある。もしサイト間相互作用が非常に強く、それぞれのサイトでの既約表現を計算した場合、磁気構造は両方のサイトに現れる既約表現のみで表現されるはず。たとえば磁性サイトが2サイトあるのに転移が一回しかおきない場合。逆に、両サイトの既約表現に共通のものがなければ、二つのサイトは独立の振舞いをしているはず。
Representational Analisys の計算ではcentering transration操作は無視されるが、centering transrationとしてtがあった場合、SARAhで計算した磁気モーメントと、センタリングによって生じる磁気モーメントの関係は、exp(-2pi i kt)
SARAhのlst2の最後にある複素数表示での基底ベクトルに対しこのexp(-2pi i kt)を用いて、その後に実数化すれば、各センタリングでの磁気モーメントの位置がでる。
結局、SARAhは(たぶんModyも)、センタリング操作を除いた原子位置での磁気モーメントを計算してくれて、センタリングによる変換は自分で計算すればいい。
しかし、
このkの定義でいけば、センタリングのないPrimitiveセルでは、commensurateならユニットセルの大きさだけでkが決まり、内部の磁気構造にはよらないはず。しかし、消滅則がある場合は区別すべきではないか。たとえば、P4/mbmでは全てのサイトでh00 (h=奇数)が禁制反射である。ここで(100)などに磁気反射が観測された場合は、磁気ユニットセルと格子ユニットセルが一致しているが、k=(000)ではなくk=(100)とすべきだ。
P4/mbmの場合、SARAhはk=(000)で計算してもk=(100)の分も計算してくれるので問題はない。つまり、反強磁性結合と強磁性結合の両方の基底ベクトルが出現している。しかし、表現としてはk=(100)が正しいはず。
結局、センタリングのない構造(P)では、磁性原子が対称性の高いサイトに入る場合は、k-vectorを考える際にその消滅則に注意すればよい。
ErB2C2 ( k=(000) 、P4/mbm)の磁気構造解析のPCR for Fullprof
SARAhで作成したPCRファイル。このPCRファイルでfittingできた。
!-------------------------------------------------------------------------------
! Data for PHASE number: 2 == Current R_Bragg for Pattern# 1: 3.82
!-------------------------------------------------------------------------------
Magnetic Phase
!
!Nat Dis Mom Pr1 Pr2 Pr3 Jbt Irf Isy Str Furth ATZ Nvk Npr More
1 0 0 0.0 0.0 1.0 1 0 -2 0 0 0.00 0 7 0
!
P -1
! Nsym Cen Laue Ireps N_Bas
2 1 4 -1 1
! Real(0)-Imaginary(1) indicator for Ci
0
!
SYMM X, Y, Z
BASR 0 0 1
BASI 0 0 0
SYMM -X+1/2, Y+1/2, -Z
BASR 0 0 -1
BASI 0 0 0
!
!Atom Typ Mag Vek X Y Z Biso Occ C1 C2 C3
! C4 C5 C6 C7 C8 C9 MagPh
ER1 JER3 1 0 0.00000 0.00000 0.00000 0.30000 1.00000 8.100 0.000 0.000
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.00000
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
!------- Profile Parameters for Pattern # 1
! Scale Shape1 Bov Str1 Str2 Str3 Strain-Model
26.255 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0
11.00000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
! U V W X Y GauSiz LorSiz Size-Model
0.453330 -0.620650 0.300690 0.000000 0.107260 0.000000 0.000000 0
101.000 111.000 121.000 0.000 131.000 0.000 0.000
! a b c alpha beta gamma
5.329898 5.329898 3.490530 90.000000 90.000000 90.000000
21.00000 21.00000 31.00000 0.00000 0.00000 0.00000
! Pref1 Pref2 Asy1 Asy2 Asy3 Asy4 S_L D_L
1.28574 0.00000 0.18176 0.04551 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
注意点:
Erを一つしか定義していない。ユーザーが定義した対称操作で、もうひとつのEr(1/2,1/2,0)の位置と磁気モーメント向きが計算できるから。
propagation vector kを定義していない。k=(100)をk=(000)としているから。
ユニットセルの大きさは格子ユニットセルと同じ。k=(000)だから。
既約表現のうち、二つの磁気モーメントが反平行になるものを選んでいる。他の既約表現は物理的におかしいので除外できた。
ここでは既約表現は1つしか定義していないのに、係数パラメーターCiは9個定義している。実際に使っているのはC1のみ。
既約表現は規格化しておかないといけない。SARAhの出力は規格化されてない。
ErB2C2 ( k=(d,d,0) 、P4/mbm)の磁気構造解析のPCR for Fullprof
中間相の横波正弦波構造、d=0.111での計算結果
!-------------------------------------------------------------------------------
! Data for PHASE number: 1 == Current R_Bragg for Pattern# 1: 1.00
!-------------------------------------------------------------------------------
Magnetic Phase
!
!Nat Dis Mom Pr1 Pr2 Pr3 Jbt Irf Isy Str Furth ATZ Nvk Npr More
1 0 0 0.0 0.0 1.0 1 0 -2 0 0 0.00 -1 0 0
!
P -1 --Space group symbol
! Nsym Cen Laue Ireps N_Bas
2 1 4 -1 1
! Real(0)-Imaginary(1) indicator for Ci
0
!
SYMM X, Y, Z
BASR 0 0 2
BASI 0 0 0
SYMM Y+1/2, X+1/2, -Z
BASR 0 0 -1.533
BASI 0 0 -1.285
!
!Atom Typ Mag Vek X Y Z Biso Occ C1 C2 C3
! C4 C5 C6 C7 C8 C9 MagPh
ER1 MER3 1 1 .00000 .00000 .00000 .30000 1.00000 0.000 0.000 0.000
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 .00000
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
!-------Profile Parameters for Pattern # 1
! Scale Shape1 Bov Str1 Str2 Str3 Strain-Model
10.0 0.0000 0.0000 0.0000 0.0000 0.0000 0
0.00000 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
! U V W X Y GauSiz LorSiz Size-Model
1.08239 -0.23233 0.25618 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
! a b c alpha beta gamma
1 1 1 90 90 90
0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000
! Pref1 Pref2 Asy1 Asy2 Asy3 Asy4
0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
! Propagation vectors:
.1110000 .1110000 .0000000 Propagation Vector 1
0.000000 0.000000 0.000000