解析が終わったら、早速論文にしましょう。単に結晶構造をきめただけの論文、構造はすでに分かっている物質のパラメーターを決定しただけでも、なにかと厳しいJPSJに受理される場合があります。重要なのは、その物質の構造パラメーターが他の研究者にとって有益な情報になる事を強調する事です。「これまで決まってなかったので決めました。」では、論文とは言えません。たとえば、物性を理解する上にはバンド構造の定量的理解が重要である事を読者に理解してもらえれば、構造パラメーターを発表する価値を明確にできるでしょう。それでも蹴られたら、他の雑誌に投稿するまでです。 |
論文に関する注意事項F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, 321-324 (2000) 198-203. RIETAN使用許諾条件についての泉先生のコメント RIETAN License Agreement HERMESの第3コリメーションは試料セルの直径によって変化しますので、注意してください。直径10mmでは22'です。 Rietveld Analysisです。Rietveltではありません。 わかりやすい結晶構造の図を必ずつけます。対称性とサイトだけでは、読者は理解できません。 R因子は、reliablility factor, R-factorと書きます。refinement factorと書いたらしかられました。 論文中では、R-factorは、Rwp, RF, などだけではなく、ReかSも必ず書きましょう。これがないと読者がデータの品質を判断できません。 R-factorで、Rは物理量ではないけれど実験データと直結した量ですから、イタリックで書きます。一方添字のwp,B,I,eなどは物理量ではなく単に略語ですから、romanで書きます。($R_{\rm wp}$など)意外に間違えています。 対称性の表現も数字以外はイタリックです。P4/mbmなど。($P4/mbm$) サイトは 2a、など括弧なしで表記します。数字が多重度、英字がWyckoff letterです。位置パラメーターx,y,zだけでなく、原子位置が分かるように座標を表記しましょう。たとえ(0 0 0)位置でもそう書くべきです。座標は、( x, x+1/2, 1/2)など、分数で書きます。 B parameterは重要な結晶パラメーターです。格子状数、位置パラメーターと共にかならず論文に加えましょう。専門家は、Bの値を見てFittingが妥当かどうか判断しますので、書かないと閲読者から怒られるでしょう。Bに条件をつけた時、固定したときは、その説明も正確に。 B parameterは、日本語なら原子変位パラメーター、英語では Isotropic displacement parameterです。温度因子ではありません。少なくとも会話ではかなり多くの人が間違えています。なお、Bの単位はÅ2です。 RIETAN-97bとRIETAN-2000ではreferenceが異なります。RIETAN-2000には新しいreferenceを引用しましょう。insファイルの最後に書いてありますから確認してください。決して引用を忘れないように!! 論文に加えた結晶パラメーターには必ず誤差をつけます。RIETANで得られる標準偏差を誤差として 括弧で表記すればよいでしょう。例えば、a=5.04598(1)の意味は、8に+-1の誤差が、すなわちaに0.00001の誤差がある事を意味します。 ただし、標準偏差はあくまで最小自乗法での統計学的な標準偏差にすぎず、実験上の誤差ではありません。標準偏差は現実的な誤差よりもかなり小さく見積もられる傾向があります。従って、標準偏差よりもずれが大きくても、有意差とはいえません。泉先生の解説によれば、3倍以上で有意差といってよいそうです。 そのような問題があるので、私は、本文中に「RIETANで得られた標準偏差を誤差とする。」と誤差の定義を明記する事にしています。 RIETANを使えば、格子状数、位置パラメーターx,y,zなどが簡単に得られますが、それだけでは論文になりません。各原子間距離、角度などを求め、イオン半径でプロットする、共有結合距離などの物理的化学的に意味のある値と比較する、ユニットセルの体積を計算する、など情報をできるだけ引き出し整理すべきです。orffeを使えば簡単です。希土類なら価数の議論も重要です。特にCe, Ybの場合は必ず考察します。 もし、過去に関連した論文があれば、必ず引用して比較してみます。古い論文の場合、ユニットセルの定義や対称性が異なる場合がありますから、注意してください。また、精度が異なる場合がありますから、その点も注意が必要です。 粉末回折パターンには指数を必ず書きます。データを見なれている研究者は、指数からかなりの情報を読み取ることができます。場合によっては、この段階でモデルが間違っている事が判明したりします。全ては無理でも、できるだけたくさん書いておきましょう。後で自分のためにも役に立ちます。なお指数は、1 1 1, 2 0 0, などのように括弧なしが正しい表記です。 論文をかくまえに、自分の試料に含まれる元素のb(散乱長)を一度はチェックしましょう。複数の元素のbが偶然非常に接近していて、中性子では区別がつかない場合があります。たとえば、11BとCなど。この場合、この2つの元素のorder-disorderを決める事はできません。しかし、計算としてはどこかに収束しますから、うっかりすると、決められないはずのものをそのまま論文にしてしまって、あとでひどいめにあうかもしれません。 試料に大きなbをもつ元素と小さなbの元素が入っている場合、散乱強度はbの2乗に比例するので、bの小さな元素の情報は当然相対的に精度が低くなります。ある元素のx,y,z,Bの誤差が大きい場合は、チェックが必要です。 不純物がある場合は、できる限り不純物がなにかを明らかにし、2相Fittingで解析する。もしなんだか分からなくても、不純物ピークの存在は指摘すべきでしょう。データの質の目安になります。 結晶構造の論文ではなく、たとえば磁性に主体をおいた論文でも、Rietveld解析をしたときは、表の形でパラメーターを明示して置いた方がいいかもしれません。他の研究者の情報になりますし、追試にも必要です。 |