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RIETANによる磁気構造解析

UpData : 18-AUG-2001




RIETANは磁気構造解析も可能ですが、私はまともに挑戦したことがないので、よく知りません。ここに書いた注意事項が私の知っている事のすべてです。ここを読んでも分からない事があったからといって私にメールしても無駄です。



0:RIETANにせよ他の解析ソフトにせよ、磁気構造のモデルは作ってくれません。自分で考えるしかないのです。背景にある様々な物性を基に物理的に妥当なモデルを構築する必要がありますから、他人に聞く事もできません。ただ、SARAhを使えばもしかしたら一発でモデルができるかもしれません。


00:Fittingプログラムは磁気構造モデルの正統性を保証してはくれません。2つのモデルのどちらがましかを示すだけです。「解析に用いたモデルの候補の中ではこれが一番良い。」というのは正しいのですが、「Fitting結果が良好である。故にこのモデルは正しい。」という事はできません。この点を勘違いしている人が結構います。たくさんいるので目立ちませんが。
理想的には「これこれの実験事実から、磁気構造モデルはこうでなければならない。このモデルを用いてfittingをし、自由パラメーターの値を精密化した。もちろんモデルは正しいので、当然一致は非常によいし、パラメーターの値も信頼できる。」あるいは「合理的なモデルとして2つだけが考えられる。両方のモデルでFittingした結果、Model 1の方が一致がよいので、Model1が正しい。」のような論法にしたい。



1:RIETANで解析可能な磁気構造は、磁気モーメントの向きをUp, Downだけで表せる1軸性の磁気構造でかつ磁気ユニットセルを定義できる構造だけです。磁気モーメントをUp,downだけで表せる反強磁性は許されますが、向きの変わるCANT構造、スクリューなどの長周期構造は解析できません。


2:RIETAN-97b三斜晶系、単斜晶系など斜方晶より低い対称性の場合、磁気構造解析はできません。たとえ結晶構造が斜方晶でも、磁気構造が低対称の場合は解析不能です。RIETAN-2000では、低対称結晶系でも磁気構造解析可能なはずです。(RIETAN-2000に関しては泉先生からコメントいただきました。)


3:1軸性の磁気構造であっても、磁気構造の対称性を空間群で表現できなければ解析不能です。1軸性の磁気対称群(黒白群)は結晶構造の対称群(230個)より遥かに多いので、このケースは頻繁におこります。(P1にすればいいのかもしれませんが。)この場合はあきらめて手計算するか、覚悟を決めてFullProf、GTASを使う事になります。手計算をお勧めします。


4:幸い解析可能な場合にまずやらなければならないのは、磁気構造モデルの空間群を探す事です。International Tableをよく調べて、正確に構造を表現できる対称性をみつけます。当然、結晶構造の対称性よりも低対称になります。


5:RIETANにはpropagation vectorという概念はありませんから、磁気構造まで考えたユニットセルを再定義する必要があります。多くの場合、位置を定義する必要のある原子の数は2倍以上に増えていきます。


6:磁気モーメントを持つ原子は、chemical speciesの定義、原子のサイト定義で、Nd*のように、*をつけます。


7:磁気モーメントの大きさは、各原子一パラメーターの行で、Bパラメーターの後ろに書きます。この時、Up,Downに対応して、正負をつける必要があります。


8:サイトの対称性、ユニットセルの定義が変わっていますから、x,y,zパラメーターの定義に注意します。特に、パラメーター間に制限条件がある場合は正しい定義になるように修正が必要です。


9:磁気形状因子は、chemical speciesの定義の次の行あたりで定義します。磁気形状因子のQ依存性に対して多項式のfittingを行い、その多項式の係数をinsファイルに書くことになります。多項式の定義はマニュアルを良く読む必要があります。RIETAN94のマニュアルがいいでしょう。


10:磁気モーメントの向きをきめるパラメーターPHIは、すべての原子サイトのパラメーター(g, x,y,z,B)を定義した後、その次の行に入力します。パラメーター名はPHI以外でもちゃんと動きます。


11:非常に多い間違いは、このPHIの定義です。PHIの定義とパラメーター数は磁気構造の対称性で全く異なりますので、マニュアルで確認する必要があります。正方対称の場合、パラメーター数は1個で、磁気モーメントがc軸となす角度、斜方対称の場合、パラメーター数は3個で、磁気モーメントがa,b,c軸となす角度になります。RIETAN94のマニュアルが分かりやすいでしょう。あるいは、泉先生が日本結晶学会誌に書いた初心者向けの解説の第2回も参考になります。


12:粉末回折での磁気構造解析には本質的な限界があります。すなわち、磁気モーメントの向きを完全にきめる事は、多くの場合不可能です。たとえば、立方対称の場合、粉末回折できめられるのは、磁気モーメントの大きさのみです。正方対称なら磁気モーメントの大きさとc軸からの向きのみ、斜方対称なら各軸からの角度が決まります。この事からRIETANのPHIパラメーターの定義が決まってきます。



上の1、2、3に該当する磁気構造の場合は、自分でプログラムを作るか、FullProfなど他のソフトを使う必要があります。自分で作る事をお奨めします。その場合も12の本質的限界は生きています。



お断り

磁気構造解析のサンプルファイルを欲しい、と連絡してくる方がいますが、その要望にはお答えできません。磁気構造解析に適当な標準試料がないし、私自身解析した事がないからです。


ごくまれに、insファイルをいきなり送り付けてきて、動かないんだけど何がおかしいかみてくれ、といってくる人がいます。これは非常識な行為です。


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